V-16
結局昨日は何も考えず眠りについた。
友達同士ではしゃぐクラスメートも、つまらない上にわかりにくい授業も、よくわからないけど手も繋がずに帰るクラスのカップルも、全ていつもの日常だった。
生憎、今日は6限まで授業があって塾に着いたのは4時前ギリギリだった。
『俺にしろよ』
『本当に悪かった』
2つの声が脳をこだまする。
どちらかを選ぶときが刻々と迫っている。
思い起こせば3ヶ月前。
総悟先生のことしか見えなくて、ただ何も知らずにがむしゃらに恋焦がれて、振り回されて、抜け出した道路で銀ちゃんに出逢った。それから銀ちゃんとよく喋るようになって、いつのまにかみんなと仲良くなって、総悟先生以外のものも見えるようになった。銀ちゃんとの時間が増えて、銀ちゃんを落とそうとした時期なんてのもあった。総悟先生には沢山泣かされた。ホテルに行くところを何故か銀ちゃんと目撃して以来、怒られて、キスされそうになって、怒鳴られて、消えろって言われて。どんな時でも銀ちゃんはそばにいてくれた。総悟先生がホテルに入っていくのを目にして放心した時も、駅まで送ってくれた。会ったその日に名前を覚えてくれた。家族に居場所がない時も、電話をくれた。私が沈んでる時、いつでもそばに来て、笑わせてくれた。励まされて、笑わされて、元気を貰って。
落とそうだとか、すきになってもらえたらとか、付き合えたらとか、そんなことを考えていた時間はたったこの3ヶ月間にあったものなのに、遥か昔の思い出みたいだ。
銀ちゃんに告白されるなんて誰が予想し得ただろう。
総悟先生と体を重ねるなんていつ予想しただろう。
時間はめまぐるしく過ぎた。
詰めこまれて、詰めこまれて、いろんな感情を知ったこの3ヶ月間。
初めて経験したもの。
初めての本気の恋。
初めての気持ち。
自分の気持ちさえ、わからなくなった。
私は願ってた 彼の幸せを。
私は願ってた 私の幸せを。
私は甘えていた 彼に。
彼は甘えていた 私に。
どうしたら幸せになれるのか、わからなくなった。
どれが本当に私が求めてるもなのか、わからなくなった。
今ならわかる。
私の気持ちも 総悟先生の気持ちも 銀ちゃんの気持ちも。
今なら素直になれる。
答えなら、最初から出てた。
そして、その答えを提出する時間が、今、やってきた。
突然、自習室の扉が開いたかと思うと、塾長が一番に入ってくる。
その後ろには―
あれ?この情景は――――
「みんな、突然失礼するよ。今日で、こいつがここを去ることになった。私の仕事も一変して、代わりはいらなくなったんだが、ここにいてもいいって言っても聞かなくてねェ・・・それも、今から出るみたいだから、せめて最後の挨拶くらいは聞いてやんな。」
去るって?
どういうこと?
「えー、突然ですが、私坂田銀時は、今日でここを辞めることになりました。まぁ、もともと代わりで来たようなもんだし、仕事もろくにやってねェけど・・・楽しかったです。色々とお世話になりました。」
いつも、いつでも、近くにいたはずのその目が今は何故か悔しいくらいに目が合わなくて、遠くに感じる。
柄にもなくスーツのネクタイをきちんと締めて、頭を下げてお礼を言うなんて、銀ちゃんらしくない。
どういうことなの?
挨拶を終えて去っていくその周りに生徒が群がる。
けど、私はそれに混じることも出来なくて、ただ呆然と口を開けて彼が部屋を出て行くのを見送ることしか出来なかった。
行かなくて いいの?
追いかけなくて いいの?
ここにいいて いいの?
ボンドでくっ付けられたようにイスから動かない自分の体に疑問が沸き起こる。
階段を下りてゆく足音と「元気でね」って「ありがとね」って言う生徒の声がこだまする。
いいはずない!
私は走り出した。
・・・・・next?
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