V-14
目が覚めると見慣れない天井があった。
安っぽい布団の感触と昨日の記憶を辿れば、ここがラブホテルなんだということを知って、隣の空間に気付いた。
どうやら、は帰ったらしい。
男を残して帰るなんてあいつも強ェなァ。
って、起こせるわけねェか・・・
体を起こして自嘲気味にふっと笑いをこぼすと急に涙が溢れてきた。
『そんなあんたがいたから私は変われたんだよ』
『嫌いになんてなれなかった』
『ずっとすきでした』
『ありがとう』
泣いてるあいつの笑顔が蘇る。
綺麗なものこそが自分に釣り合うと思っていた。
人にすがらないと寂しかった。
だから綺麗に見えるものを選んだ。
でも俺は、自分にすがってくるものさえ必要にして、恣にしていた。
あれもこれも欲しがって、すがって、すがられて。
欲しがって、捨てられて、捨てて。
けど、あいつは、は、すがってきたのに、自分には釣り合わないくらい真っすぐで。
そんなやつに、俺は最後の最後で自分からすがりついてしまった。
最低な方法で。
本当に俺は何をしてしまったんだろう。
どんな重い罪を犯しちまったんだろう。
手に入る距離にいた大切なもんも今度こそ全部自分で壊しちまった。
それも、最後の最後で一番大切にしてェって思ったもんを。
本当に欲しいと思ったのに。
俺の周りに残るものはこの先何もねェんだろうか。
俺はずっと独りなんだろうか。
好きな女にも好きって言えずに終わっちまうんだろうか。
涙が布団ににじんでいく。
自分が犯した罪の重さを噛み締める。
胸が痛ェ・・・
後悔の念だけが募る。
罪の重さを実感すればするほど、涙が伴って出てくる。
拳に力を込めて、布団を殴る。
自分の手に痛みなんてなかった。
胸の方がずっと痛くて、苦しくて、ただがむしゃらに目の前のものを殴りつけた。
「一体俺は何をやってるんでィ!何がしたかったんでィ!!」
いくら声に出しても答えは出ない。
いつの間にか切れた息に肩でそれを整えながら1人の部屋に自分の声だけが響いた。
「会いてェ・・・」
抜け殻の布団を抱きしめて、俺は泣いた。
シャワーを浴びて、ようやくケータイを覗くと、いつもの下らねェメールの中に紛れて1通、ある奴からのメールが届いていた。
『話したいことがある人がいるなら、いつもの店に来い。』
旦那からだった。
『話したいことがある人』。
・・・!
瞬時に思い浮かんだのは、あいつの笑顔だった。
このままじゃ駄目だ。
今やらなきゃ。
今行かねェと。
俺は早急に着替えて、ホテルを出た。
ホテルを出て、一番最初に旦那に電話を掛ける。
「もしも〜し。」
「今一緒にいるんですかィ?!」
「もう、いきなり何。誰と?」
「わかってるんでしょう?とでさァ!!」
わざとらしいその口調に苛立ちを少しずつ感じながら、足はそちらへと速める。
「今着くところ、・・お前さァ、本当に自分のしたこと、わかってんの?」
その一言で足が止まる。
・・・どうしてバレてるんでィ。
でも、それよりも、その一言の重みが人に言われることでさっき自問していたときよりも重く自分にのしかかる。
「今まで散々調子いいこと言っておいて、その気持ち利用して傷つけておいて、一番手を出しちゃいけなかったもんに手ェ出して、ボロボロにした・・・その重みがわかってんのかって聞いてんだよ!!!」
旦那の声が耳につけた塊から脳みその小部屋にこだまする。
足がすくんだ。
「俺、言っておくけど今から渡す気とかねェから。何か言いてェことがあるなら来いよ。来てみろよ。これ以上ちゃんを傷つけさせてたまるかよ!てめェみたいなクソ男に渡さねェ自信あるぜ・・・その面下げに来やがれ、クソ男!!!」
渡さねェ・・?
ふざけんな・・・!
俺はようやく意識を取り戻したようにケータイを強く握り直す。
ギリッと手にケータイが食い込んだ。
「・・うるっせェなァ!てめェこそ今まで彼女いたくせになんなんだよ!今更出しゃばんじゃねェや!!!」
そう言って、相手の返答は聞かず、俺はまた走り出した。
・・・・・next?
|