V-13
朝起きると、改めて冷静に昨日までの出来事と同時に下半身の痛みが蘇った。
隣で未だ寝息を立てる総悟先生の横で一人起き上がって考えた。
これできっとよかったんだろう。
思いとは別に流れてくる涙と嗚咽に隣で眠る人を起こさぬよう、私はバスルームに向かった。
結局、総悟先生は起きることもなく、起こすこともなく、私はその部屋を後にした。
ケータイを見ると多数の着信履歴があって、連絡を入れず一夜を明けたことをようやく認識した。母と塾からだった。塾からの留守電は、銀ちゃんからだった。
とりあえず母親に電話を掛けると矢継ぎ早に「どこにいたの、どうして連絡しなかったの、事件に巻き込まれてると思ったんだから、今はどこにいるの」の質問攻めの雨が耳に届く。事件なんて考えるんだ、なんてぼうっと頭の中で思いながら、昨日は久しぶりにたまたま会った友達と会って居酒屋に入ったら酔っ払って友達の家に泊まったという適当な言い訳を作ると、喋り疲れたのか、ホッとしたのか、「とりあえず早く家に帰ってきなさい」と怒鳴り散らされると電話が切れた。
塾に電話を掛けようとしたけど、銀ちゃんには何を言っても見透かされる気がして、何を言われるのか急に怖くなって、メールを入れた。
なのに、すぐにメールが返ってきた。
「新宿にいるならいつもの店に入ってろ。」
普段あまり見ない命令形のメールに少し焦りと恐怖に似た感情を抱きながらも、向かわなかった後のことを想像した方がずっと怖くて、渋々とそこへ向かった。
何を言われるかわからない。
怖い。
でも、それ以上に銀ちゃんに口を聞いてもらえないのも怖くて、私はただ、はい、という2文字を送ると、駅に向かっていた足取りを変えて、桂さんのお店の方へ向かわせた。
1週間と1日以来、つまりあの日以来だった。
「何を言ってるんだ。早く帰ってきなさい。」
そう書かれたメールが返ってくると期待して、
「塾の人が心配してるみたいだから少しだけ顔を出して帰る。」
そう母にメールを入れると、返信には「わかった」という思いもよらぬ言葉が返ってきた。
親といういくらなんでも口出しできないであろう帰らなければならない状況を少しだけ期待した私の期待は見事に打ち砕かれた。
尚更私の胸の緊張はおさまらなかった。
顔を会わすと、少しビックリした様子を見せたものの、優しく招き入れてくれた桂さんはいつもの奥の小部屋へ私を導いた。
・・・・・next?
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