V-09
その日の帰り道、地元に着く少し手前、1日絶えた日常が2日前までの日常に戻った。
銀ちゃんからのメール。
電話をしていいかとのことだったので、ちょうど自分の目的の駅まで着くと、メールを送った。
それは、本当にいつもと変わらない日常で、昨日のことはなかったことのように人が過ぎて、電話が鳴って、それを私がとる。
「もしもし。」
「もしもーし、お疲れ様ー。」
「お疲れ様。」
そんな戻ってきた日常に電話越しの銀ちゃんの声を聞いて実感し、また、ほっとする。
「はぁ、けどよかった。本当にちゃんが今日来てくれて。」
「私も銀ちゃんがいつもみたいに話し掛けてくれたから凄く嬉しかった。」
昨日のことは忘れたわけじゃない。
少し思い出すだけでもまた胸が痛くなる。
痛くなるけど、銀ちゃんには感謝の念しかなくて、ただそれを伝えたくて、私は必死にそれを伝える。
少しの間、音のない時間が私たちに流れる。
私は怖いとか嫌とか思い出したくないとかそんな気持ちよりも自分の気持ちにドキドキしていた。
怖かったけど、ちゃんと自分の感謝の気持ちを本人に届けられるかなって。
届いてるかなって。
「・・・ごめんな、本当に。俺がいるから大丈夫かなとか甘かったわ。でも、なんか、俺がこう言うのもなんだけど、本当に来てくれてよかった。」
改めて、銀ちゃんが自分を思い詰めていたことを知って、申し訳ない気持ちと、でも辛かった痛みも同時に思い出す。
自分のことしか、自分の痛みしか考えていなかった。
でも、銀ちゃんも自分を責めていたんだ。
「言っとくけど、総悟より土方君の方がいい男だよォ?まぁアイツも色々と問題ある男だけど。」
「・・何言ってんの、もう別に私総悟先生のことなんて」
「いや、見ればわかるから。」
つい数秒前の声色が一変する。
私を戒めるようなその声は何だろう。
冗談みたいにいつもみたいにまた下らない話に戻してくれるんじゃないの?
そんな私の期待も知らず、銀ちゃんは続ける。
「本当にあいつだけはやめとけって。わかっただろ?あいつは本当にどうしようもない奴なの。情けなくって、だらしなくって、俺はちゃんがあんな奴に泣かされるのも、悲しむ姿も二度と見たくなくて・・・だから・・・」
「ごめん、着いたから今日は切るね。ありがとう。」
耳に入ってくる「おい!」とかそういう言葉は全部無視して私は終話ボタンを押した。
銀ちゃんは悪くない。
わかってる。
けど、私の胸の中には確かに怒りが沸いていた。
悲しみにも似た怒り。
どうしてそんなこと言うの?
心配してくれてる優しさ。
わかってる。
わかってるってば。
わっかてるけど、
けど、
なんで?
今の自分がまたわからなくなる。
けど、まるで私にすがるようなそんな銀ちゃんの声を聞きたくなくて、電話が切れた今も私はずっとケータイを強く握りしめたままだった。
やめておくなんて、そんなことが出来たらとっくにやめてるよ。
・・・・・next?
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