私の好きなひとは、同じクラスの沖田総悟。
私達のクラス、3年Z組は個性派揃いの変なクラス。
その個性派の中にもあのひとは入ってる。
ルックスは爽やかだけど、性格は腹黒。
でも、そんな彼が私は好きなのです。
朝、いつものように教室に向かい扉を開けると、いつものようにワイワイガヤガヤ煩い教室。
私は、その騒がしい教室に入り、特に誰にも挨拶をせず自分の席へ向う。
私の席から総悟の席はそんなに近くない。
一緒の列でもなんでもない。
ただ、私が左側の後ろの方の席だから(先生たちから見たら右側だけど)、右斜めの総悟をいつも後ろから見てる感じ。
だから、そんなに会話をするわけでもない。
というより、男子自体とあんまり喋らない感じだ。
別に、男子が嫌いなわけじゃない。
普通に喋れるんだけど、ただ、自分からあんまり話しかけないから、喋る機会が少ないだけ。
女子とは喋るけど、このクラスのどの女子に恋愛の相談をしても、協力どころか、むしろ崩壊させられそうだ。
それに、男子と仲良くしたくて、笑顔を作って可愛い声を出して話し掛けている女子を見ていると、どうも自分の胸の奥がもやもやしてきて、凄くブルーになる。
そう、決して自分に自信が無いとか自分が嫌いだからとかで、あまり人と積極的に喋らないわけではないのだ。
でも、総悟にはなるべく話しかけるようにしてる。
話しかけすぎてもなんか鬱陶しいかな、なんて思って頻繁にじゃないけど。
おかげさまでお互い名前で呼び合えるくらいの仲にはなった。
けど、こんなんじゃ、全然総悟の目にもとまらないことはわかっている。
ただでさえ、こんな個性派揃いのクラスなのだから。
そこで、最近頑張ってバイトして集めたお金で化粧品を買い集めて、毎日化粧をしていくことにしたのだ。
これで、少しづつでも総悟に話しかけていけば、お洒落をしている私を少しでも目にとめてくるかも?なーんていう考えだ。
先ほどの考えからもわかるかのように、私の性格は、そこまで女らしいものではく、冷めてるとか、落ち着いてるとか、言われている。
しかし、そんな私でも好きな人の前では立派な恋する乙女であったりするわけです。なんつって。
そんなことを考えていたらなんだか恥ずかしくなってきた。
トイレに行こう。顔も確認したいし。
そして、立ち上がってトイレに向いだした。
そうすると、歩いていく方向に長谷川がいた。
「あ、おはよ、。」
「あ、うん、おはよう。」
「なんか、お前今日ちがくね?あー、髪かなんか切った?」
「ううん、違うよ。」
「そうか?まぁいいや。」
そう言って長谷川はどこかへ歩き出した。
長谷川とは話さないわけではないけど、別にそんなに仲がいい訳でもない。
長谷川も少しは私が変わったこと気付いてくれた。
これだったら、もしかしたら総悟も話しかけてくれるかな?
そんなことを考えながらトイレの鏡に映った自分を見た。
ちょっと学校にしていくには濃い目かもしれないけど、みんなが私がいつもよりちょっと違うってこと気付いてくれるなら、いけるかも!
ていうか、これならちょっといつもより可愛く見える・・かも!
そんな自信がみなぎってきた。
鏡を見ていたら、トイレから誰かが出てくる音がした。
「あら、じゃない。着いてたのね。」
「あ、妙ちゃん!おはよう。」
トイレから出てきたのは、妙ちゃんだった。
その後ろからひょこっと顔を出したのは、神楽。
「あ!!来てたアルか。私さっき着いたヨ。」
「あ、そうなんだ。私も探してたよ。」
「あれ?なんか今日、いつもと違うアル。」
「そうね、どうしたの化粧なんかしちゃって。」
「いや、バイトのお金溜まったから化粧品買ったから使ってみたの。・・変かな?」
「いや、可愛いアル!なんか女のこらしいネ!」
「そうよ、いつもより可愛いわ。」
「本当?嬉しい。」
2人に褒められて、なんだかほっとした。
それと同時に、今日総悟と話す機会が増えたりなんか変化が起きないかな?なんて考えてたらドキドキしてきた。
トイレを出て、3人で廊下を歩き出した。
「ねえ、妙ちゃん今日の宿題やった?」
「やってるわけないじゃないそんなの〜。」
「、わたしもやってないアル!安心しな!」
「なんだ、誰かやってたらうつそうと思ったのに。」
「やらなてくてイイネ、あんなの。」
「だよね、よかったぁ。」
普通の学生のような会話をしてまた教室に入った。
ドアの近くに総悟と土方と近藤がいる。
挨拶したいな。
やばい、なんかドキドキしてきた。
近くなってきたら、たまたま総悟が顔を上げて、目が合った。
「あ、総悟・・おはよ・・」
頑張って明るい表情を作ろうとはするものの、なんだか今の私、目が泳いでいそう。
「オゥ。」
そう、一言交わして、私は普通に席に戻った。
一言の挨拶だけなのに、凄くドキドキしている自分がバカみたい。
でも、総悟全然目合わせてくれなかったな・・
少し肩を落として、席に戻った。
席に戻ると、はいはい席付けーという声と共に銀八先生が入ってきた。
こうして、私の一日が始まった。
1限から始まって、授業中今日はずっと総悟を見てしまった。
さっきのことを考えてたら自然と総悟に目が行ってしまった。
気付いてくれないかな、目合わないかな、なんて考えながら頬杖をついて総悟の背中を見つめた。
***
結局、一回も目も合わずに4限までが終わってしまった。
4限目が終わると、始まるのが昼休みだ。
私と妙ちゃんと神楽で三人でお弁当を食べだした。
でも、わたしは今日まだ一回も総悟と目も合ってないのがショックで、会話する気にもならなかった。
「・・・・はぁ・・。」
「どうしたアルか?元気ナイヨ?」
「ううん、なんでもない。」
「ならいいケド。」
結局私は、お妙ちゃんたちともあまり会話もせず昼食を食べ終えた。
なんとなく、机にずっと座っているのも嫌で廊下を歩き出した。
向こう側から歩いてくるのは・・
あ。
総悟だ。
でも、話すことが無い。
下を向いて通り過ぎた。一回、目が合ったけど。
***
昼休みが終わり、5限からまた授業が始まった。
結局私は、あの後総悟に話しかけることも出来なかった。
ぼうっと外を眺め、先生が言ってることなんて左耳から入ったら右耳にそのまま抜けていく。
さっきやっぱり話しければよかったな、なんて今更少し後悔をしてる私に先生の説明なんて頭に入らない。
ぼうっとしてるうちに私の今日の一日が終わった。
「、帰りましょ。」
「あ、ごめん。今日ちょっとゆっくりしていきたいから・・。」
「わかったわ、じゃあまた明日ね。」
「バイバイー。」
「うん、また明日。」
そう、力の無い笑顔で窓からお妙ちゃんや神楽を見送った。
教室を見ると、みんな部活に行ったり家に帰ってしまって教室には誰もいなかった。
「はぁ・・・最悪。」
寝癖が無い日とか、髪型が綺麗に仕上がった日とか、そういう日に限って、全然総悟と話す機会が無い。
逆に、寝坊してギリギリで走ってきた日とか、そういう日に限って総悟と話す機会が訪れる。
どうして、こう、うまくいかないんだろう・・
そもそも話しかけられること待っているのが悪いのかな。
今日は長谷川に話しかけれたり、妙ちゃん達に可愛いって言われたから、絶対総悟も話しかけてくれると思ってたけど、そんなはずないか。
急に自分に自信が持てなくなってきて、机にうつ伏せになって一回深呼吸した。
顔を上げて、自分の鏡で自分の顔を見てみる。
自分、案外可愛いかもなんて考えていた朝の自分がバカらしくなってきた。
せめて、可愛く笑えたらなぁ。
そう思い、鏡の自分に向ってそっと微笑んで見る。
あぁ、やっぱダメ。
全然可愛くない。
はぁ、とまたため息をついて髪形を直しだした。
化粧も落ちてきている。
早く帰ろう。
そう思って鏡を閉じようとした。
「そんなに鏡ばっかり見て、自分の顔がそんなに好きなのかィ?」
声がした方を見ると、ドアにもたれかかっている総悟がいた。
「・・ち、違うよ!!」
あんたを見てると自信がなくなるんだよ!
心の中で叫びながらうつむいた。
「そうですかィ。それは失礼しやした。でも長谷川がお前のことナルシストだって噂言いふらしてたんでねィ。」
長谷川?!
今日朝自分から話しかけてきたくせに、なんだアイツ。
むかつく。
「は?むかつく!バカじゃないの。あーもう、長谷川うざい。」
総悟の顔を見ながら、そう言ってはっとした。
あぁ、何言ってんだろう、自分。
好きな人の前で、悪口とは。
ウザイとかそういうこと言わない方が良いのに。
やっぱり、自分全然可愛くないや。
泣きたくなってきた。
好きな人の前で可愛くなれないどころか、汚い言葉使っちゃったよ私。
「・・・ただ、うまく笑えない自分に自信を持てないだけなのにな。」
そう自分の膝小僧を見ながら、小さく呟いた。
「これ、見るかィ?」
顔を上げると、総悟の指に挟まれているのはどうやら一枚の写真らしい。
「なに?それ?」
そう言って自分の机に置かれたのは、両頬をつねられている土方の写真だった。
はっきり言って普段の土方からじゃ想像出来ないような表情だ。
「ぷっ、なにこれ。どうしたの、これ?」
笑いながら、総悟に話しかけた。
「この前、近藤さんと土方がブルドッグをやったんでねィ。それを激写しやした。」
「ははっ、すごい顔。でも、よく撮れたね。」
「俺がそんな好機を見逃すわけないだろィ。これ明日コピーしまくって学校中に貼ってやりまさァ。」
「えっ、そんなことしたら超怒られそう。」
「関係ないですねィ。」
自慢げな顔をしてそんなことを話してくる総悟に笑わされっぱなしだった。
2人で笑いあって、おさまった後、沈黙を破ったのは総悟だった。
「・・ちゃんとうまく笑えてるぜィ。」
そう言った総悟の顔を見ると、口角を少し上げた総悟らしい笑顔。
あぁ、やっぱり私このひとのこと好きだ。
そう思った私の顔は、教室の窓から映る夕焼け色をよく映した。
黄昏映写機